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譜路囲出洗耳の戯言(1998/10〜)


世界の音楽ホールを訪ねて−所沢ミューズ (埼玉県所沢市)

以下の演奏会を聴いた。

2006年11月28日

マリス・ヤンソンス指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 ベートーヴェン 交響曲第8番、マーラー 交響曲第1番
 西武新宿線の航空公園駅から徒歩10分。このホールは入り口が1つしかなく、開場は開演30分前。開場時には長蛇の列ができており、中に入るのに時間がかかり、うんざりする。ホール内ロビーに弁当を持ち込んで食べている人もおり、雰囲気台無しである。ホールの響きはコンセルトヘボウに比べるとかなり乏しく、特にオーケストラが乗る箱の鳴りが少なく、弦の響きの豊かさに欠ける。アムステルダムで聴いたのと同じコンセルトヘボウ管弦楽団なのに、まったく別のオーケストラのように聴こえる。ただ、オーケストラの演奏水準は非常に高く、演奏自体はまったく文句なし。聴衆の反応もよく、ヤンソンス氏が演奏終了後に何度も拍手で呼び出され、ご機嫌のご様子でした。

世界の音楽ホールを訪ねて−コンセルトヘボウ (アムステルダム、オランダ)

2002年8月、2004年9月に続き、3回目の訪問である。9日間の滞在で、12のコンサート(大ホール10回、小ホール2回)を聴くことができた(チケット)。1日目は18時過ぎにスキポール空港着。19時にタクシーに乗りホテルに19時20分着。ホテルからホールまでは徒歩5分であり、余裕で20時15分からのコンサートを聴くことができた。最終日には16時30分に演奏会が終了し、ホテルに帰って荷物を受け取り、ホテルから徒歩2分の駅からトラムに乗り中央駅に17時着、17時11分発のデン・ハーグ行きの電車に乗って17時30分にはスキポール空港に到着、20時35分発の飛行機で出発。非常に交通の便がよく、時間を有効に使えるお勧めのコンサートホールである。あと、演奏会前、休憩中に一服できる場所がホール内に8-9箇所もあり、飲み物にすぐにありつけるのがすばらしい。かなりの人が休憩中に何か飲み物を楽しんでいる。ちなみにコーヒー、カプチーノは2.1ユーロ、赤白ワインは2.5ユーロ、シャンパーニュ(モエ・シャンドン ブリュット)は8.5ユーロ。

1) 2006/10/27、20:15-
George Benjamin指揮/Koninklijk Concertgebouworkest(コンセルトヘボウ管弦楽団)、Reinhold Friedrich, trompet、Gustavo Gimeno, slagwerk
Escher - Passacaglia, op. 10
Rihm - Marsyas
Ravel - Ma mere l'oye
Benjamin - Palimpsests(指揮者作曲、前日が初演)。

ラベル以外は知らない曲で、東京からの移動で疲れた体には少々つらいプログラムだった。コンセルトヘボウ管弦楽団は弦のアンサンブルが本当に美しいと思うのだが、美しい弦のアンサンブルが出てくるのはラベルの曲の中のわずかな間だけであり、それ以外はやたら打楽器やら管楽器やらが前面に出てくる曲ばかりで、少し残念だった。しっかりと予習してきていれば印象はまったく違うのでしょうが・・・。

2) 2006/10/28、14:15-
Otto Tausk指揮、Radio Kamer Filharmonie、Nationaal Jeugdkoor、ピアノ:Lilya Zilberstein、ソプラノ:Sabine Schneider、ソプラノ:Cora Burggraaf
Henze - Achtste symfonie
Beethoven - Tweede pianoconcert in Bes, op. 19
Mendelssohn - delen uit 'A Midsummer Night's Dream', op. 61

バイオリン群に近い位置に座ったので、メンデルスゾーンは序曲の出だしから非常に楽しめた。このホールの場合、ホールの後ろで間接音を多く聴かされるより、前のほうで直接音+ステージボックスの響き+床からの響きを体全体に浴びたほうが格段によいのではないかと思う。ベートーヴェンでのピアノ、メンデルスゾーンでの合唱団、ソリストはすばらしい出来。オケはビブラートを抑えた古楽器風の演奏で少々私の好みには合わなかったが、演奏技術自体は文句なし。

3) 2006/10/28、20:15-
Harry Brasser指揮、UvA-Orkest J. Pzn Sweelinck、ソプラノ:Wiebke Goetjes、アルト:Margareth Beunders、テノール:Marten Smeding、バス:Nanco de Vries
ベルディ レクイエム

合唱団のメンバーにお年を召した方が多く、恐らく、アマチュア合唱団。女性2:男性1と人員バランスが悪い。おまけに男性陣の声が非常に弱く、フォルテの部分ではオケの音にかき消されてまったく聴こえない。女性陣も声質が揃っていない。明らかに練習不足で歌えていない人も散見された。ソリストのアルトは半音下がりっぱなしで重唱部分では不協和音になり、聴いていてつらい。オケは荒いところが散見されるが、可もなく不可もなくという感じ。ひさしぶりにベルレクを生で聴けると楽しみにしていたのに、がっくりきた。しかし演奏終了後は聴衆の皆さんスタンディングオベーションで、拍手喝さい。私の耳がおかしいのだろうか。

4) 2006/10/29、11:00-
Stefan Parkman指揮、Groot Omroepkoor合唱団、ピアノ:Leo van Doeselaar
R. Schumann - Vier doppelchorige Gesange, op. 141
Liszt - Via Crucis

演奏団体の詳細については日本を出発する前にまったく調べてきておらず、この合唱団についても何ら気にかけてなかったのであるが、シューマン op.141の出だしを聴いた瞬間2ch風に表現すれば「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!?」という感じ。うますぎる。団員一人一人がプロのソリスト級。男女ともに声の質が良質で且つ非常に揃っている。ソプラノなど、高音部での声がころころころがり、無理せず自然に声がすーっと出ている。声量も十分で、もうこれでいっぱいだろうと思っていたらさらにその倍は出てくる。プロ中のプロという感じ。帰国後調べたらやはりプロ合唱団(オランダ放送合唱団)でした。コンセルトヘボー管弦楽団ともけっこう共演しているようで、私の持っているCDでも歌っておられました。

5) 2006/10/29、14:15-
指揮:Paul ValkHet、Amsterdams Gemengd Koor合唱団、RBO Sinfonia、ソプラノ:Claudia Patacca、アルト:Margareth Beunders、テノール:Robert Luts、バス:Frans Fiselier、オルガン:Jaap Zwart、チェンバロ:Janno den Engelsman
ヘンデル メサイア

これも恐らくアマチュア合唱団。午前に聴いたGroot Omroepkoor合唱団と比べると明らかに質に差がある。まず団員間の声質が揃っていない。合唱に適していない声質の人が混ざっている。声量が乏しい。疲れてくると音程が下がる。などなど。しかし、オケに負けて声が聴こえないというわけではなく、ソリストの出来もよく、十分に音楽を楽しむことができる水準だった。

6) 2006/10/29、20:15
ピアノ:マレイ・ペライア
Beethoven - Negende sonate in E, op. 14 nr. 1
J.S. Bach - Partita in a, BWV 827
Beethoven - Tiende sonate in G, op. 14 nr. 2
R. Schumann - Fantasiestucke, op. 12
Chopin - Ballade in f, op. 52

大ホールステージ後ろの席の1階席から見て右側最前列。演奏しているペライアを近くで見ることができるだけでなく、ピアノ内部が少し見える高さの位置にあり、ピアノからの直接音が届き、音がクリアに聴こえてよかった。たぶん、1階席よりもよい音が聴けると思うが、どういうわけかチケット代は2ndランクで少し安い。驚いたのは超満員でステージ上に3列分パイプ椅子が増設されていたこと。この最前列の人はほんとうにかぶりつきである。うらやましい。演奏は文句なくすばらしい。ところで、フルオーケストラ+ソリスト+合唱団合計500名で演奏会を開いても満席にならないのに比べ、たった1人でこれだけ超満員の人を集めるというのは収益という点で非常に効率がよい(4〜500倍?)と感じた。

7) 2006/10/31、20:15
指揮:Vincent Dumestre、Le Poeme Harmonique、Les Cris de Paris合唱団、合唱指揮:Geoffroi Jourdain、ソプラノ:Claire Lefilliatre、ソプラノ:Camille Poul、アルト:Robert Getchell、テノール:Jan van Elsacker、バス:Arnaud Marzorati
Marais - Sonnerie de Ste Genevieve du Mont de Paris
Charpentier - Super flumina Babylonis: Psalmus 136us, H 171
Charpentier - Magnificat a 3 dessus, H 75
Charpentier - Le reniement de St. Pierre, H 424
Carissimi - Historia di Jephte

8) 2006/11/1、12:30-13:00
Ensemble van het Koninklijk Conservatorium Den Haag
シューマン ピアノ四重奏曲 Op.44

はじめてのランチコンサート+小ホール。30分前に行ったが既に数十人が並んでいた。。開演10分ほど前に小ホールへ上がる階段上のゲートが開いたが、その時にはけっこうな数の人が集まっており、常連風の日本人も結構いた。チケットはなく、自由席のため、いい席を確保するため先頭の人たち走っていった。私はゆっくりと歩んで10列目くらいの中央を確保。曲は当日発表だったが、好きな曲だったのでよかった。音大学生風の若手メンバーでの編成。ピアノは日本人だった。演奏は少し荒っぽいものだったが、曲を十分楽しむことができた。ホールの響きはかなり少ないほうで、すぐに音が消えるので物足りなく感じた。天井も高くなく、奥行きも狭いので、もう少し容積があったほうがよいのかもしれない。

9) 2006/11/1、20:15-
ベルナルト・ハイティンク指揮、Koninklijk Concertgebouworkest(コンセルトヘボウ管弦楽団)、ソプラノ:Christine Schafer
Webern - Passacaglia, op. 1
R. Strauss - Freundliche Vision, op. 48 nr. 1 (uit 'Funf Lieder', op. 48)
R. Strauss - Das Rosenband, op. 36 nr. 1
R. Strauss - Waldseligkeit, op. 49 nr. 1 (uit 'Acht Lieder', op. 49)
R. Strauss - Die heilige drei Konige aus Morgenland, op. 56 nr. 6 (uit 'Sechs Lieder', op. 56)
R. Strauss - Morgen, op. 27 nr. 4 (uit 'Vier Lieder', op. 27)
マーラー 交響曲第4番ト長調

初めての2階席(ステージから見て左側2階のステージ一番寄り)でどんな響きか楽しみにしていたのであるが、予想していたよりもよくなかった。ソリストの声がほとんど聴こえないのはしかたないが、座席位置がステージよりも手前なので、オケの音が右側からばかり聞こえてバランスが悪い。思ったよりもバイオリンの音が聞こえない。座席床からの振動がない。音だけで言えばお奨めできない席である。なお、位置が近くて直接見える楽器についてはクリアに聴こえる。あと、オケを見下ろす位置にあるので、演奏者の挙動が逐一視認できるのは楽しい。交響曲第4番については、第一楽章の3〜4小節目間のタメ具合にコンセルトヘボウ伝統のものがあるとマリスヤンソンス就任記念DVDで解説されていたが、まさにそれを生演奏で聴くことができてよかった。

10) 2006/11/2、20:15-
フェルメール弦楽四重奏団
Beethoven - Strijkkwartet in G, op. 18 nr. 2
Britten - Derde strijkkwartet, op. 94
R. Schumann - Strijkkwartet in A, op. 41 nr. 3

前日のランチコンサートに続き2回目の小ホール。座った位置は違うが、やはり響きが乏しいと感じた。なお演奏曲目についてはは訪問前にCDで繰り返し予習してきており期待したのであるが、けっこう高齢の4人組で、演奏は奏者間のバランスが悪くいまひとつだった。特に、バイオリンの音程が悪いのが気になった。一方、ビオラは完璧な演奏で、かつ楽器の音もよく、できるだけビオラに集中して聴いた。帰国後、インターネットで調べたが、日本もそこそこ人気のある演奏団体だったようだが、旬はもう過ぎているのではないかと感じた。

11) 2006/11/3、20:15-
ベルナルト・ハイティンク指揮、Koninklijk Concertgebouworkest(コンセルトヘボウ管弦楽団)、ソプラノ:Christine Schafer
Webern - Passacaglia, op. 1
R. Strauss - Freundliche Vision, op. 48 nr. 1 (uit 'Funf Lieder', op. 48)
R. Strauss - Das Rosenband, op. 36 nr. 1
R. Strauss - Waldseligkeit, op. 49 nr. 1 (uit 'Acht Lieder', op. 49)
R. Strauss - Die heilige drei Konige aus Morgenland, op. 56 nr. 6 (uit 'Sechs Lieder', op. 56)
R. Strauss - Morgen, op. 27 nr. 4 (uit 'Vier Lieder', op. 27)
マーラー 交響曲第4番ト長調

ステージ後ろの一番上に近い列の1階席から見て左側。オケの音のバランスがよくないだろうと想像していたが、オケから少し離れているのが幸いしているのか、バランスの悪さを感じることはあまりなかった。ソリストは背中を向けて向こう側に歌っており、ほとんど声は聞こえない。歌曲中心のプログラムなので、もちょっとその分、チケット代を安くしてほしいものである。しかし2ヶ月前にインターネットで予約した際に私が購入した直後にsold outの表示が出ており、私が買ったがために聴けなかった人がいるということで、聴けただけでもよしとしなければならない。演奏の出来は1日のよりもよかった。となりのおばさんが「すばらしい、すばらしい」といたく感動していた。

12) 2006/11/4、14:15-16:30
指揮:Mark Elder、Radio Filharmonisch Orkest、Groot Omroepkoor合唱団、Kinderkoor van de Vlaamse Opera(フランドルオペラ)少年少女合唱団、ソプラノ:Ilse Eerens、バリトン:Ildar Abdrazakov
Berlioz - Marche funebre pour la derniere scene d’Hamlet
Berlioz - Chasse royale et orage (uit 'Les Troyens')
Berlioz - Le roi Lear, grande ouverture, op. 4
Verdi - Te Deum
Respighi - Fontane di Roma
Boito - Proloog (uit 'Mefistofele')

演奏の前に指揮者のElder氏から、今日の演奏会は音響効果を重視したものであるとのの説明があった。バイオリンは対向配置。楽器の種類も非常に多様。合唱団は左に成人(再びGroot Omroepkoor合唱団登場!)、右に少年少女の合唱団。ボイトの曲ではステージ後ろの外と2階席後ろの外での管楽器演奏で立体感を出し、バリトンの独唱、オルガン演奏もありと、てんこもり。前から9列目、真ん中の特等席を確保でき、最高の音響で非常に楽しめた。訪問前は全然期待していなかったのに感動しまくりで今回の訪問で一番よかった演奏会となった。


世界の音楽ホールを訪ねて−ドレスデン国立歌劇場(ドレスデン、ドイツ)

以下の演奏会を聴いた。 チケット

2006年1月23日 Johannes Fritzsch指揮、ドレスデン・シュターツカペレ オペラ モーツァルト 「皇帝ティトの慈悲」
内部は今風でなく、昔の趣を残した美しい設計。 入口入って正面の半地下がクローク。預かり料は1.3ユーロ。その下がバーとレストラン。2階ロビーはミニバーが。しかし眠気ざましのコーヒーがないのが不思議。皆さんフランスのシャンパン(MOET、1杯10ユーロ)を楽しんでおられたが、それがドイツ流なのか。なぜドイツワインを飲ませないのか。 シャンパンを飲みながら休憩時間に美しい天井画、シャンデリア、夜景をながめるのは非常に贅沢。ほとんどの人が正装で、高尚な雰囲気が壊れていないのがよい。 公演のほうは、予想はしていたが、現代風の演出で少しがっかり。舞台上のセットは、大きな半透明の板が天井から数枚ぶらさがり、舞台両側に柱のようなものが設置されているだけという質素なもの。 おまけに、Titus役のMartin Homirchがかなり太めのスタイルで、とてもVitelliaから嫉妬される皇帝には見えず、見ていていまいち劇にのめりこめなかった。また、最終幕では、Vitellaが気がふれたようになり、カツラを脱いでつるっぱげになってカツラの毛をむしり続けるという演出は理解不能。オケも序曲、第1幕では、ドレスデン・シュターツカペレにしてはアンサンブルが悪く、何だこれはと思ったが、後半はよくなってほっとした。セスト役のAnke Vondungは文句無しにすばらしい。外見、歌唱力、演技力、すべて満点。他の歌手はオケの演奏と歌がずれることが多いが、Vondungはぴったり合わせていた。ホール内部の大きさは想像していたよりも小さく、驚いた。1階席でも30列くらいしかなく、かつ通路は左右にしかないので、一番後ろの席でも舞台に近く、十分にオペラを楽しむことができると思う。なお私の座った1階平土間の6列目ど真ん中というのは、劇を見て歌唱を楽しむには最適だけれども、オケの音を楽しむにはいまひとつのように感じた。また、1階席の中央部に通路がないため、他の人より遅れてきた場合、中央部の席に行くには20人近くの人に立ってもらってダンケシェーンを連発しないといけない。おまけに前の席との間隔が狭いので、通りづらい。早めに行って座っておくのがよい。座席の背もたれに空調のためのエアダクトが埋め込まれており、背もたれのてっぺんのスリットからエアが噴き出しているのがおもしろい。

2006年1月24日 Davor Krnjak指揮、ドレスデン・シュターツカペレ バレエ 「じゃじゃ馬ならし」(音楽:Kurt-Heinz Stolze)
いま思い出しても鳥肌が立つようなすばらしい公演。オケのメンバーは23日とはかなり違っており、演奏もきびきびしたさすがドレスデン・シュターツカペレと思わせるものだった。原作はシェークスピアであるが、コミカルで、見ていてとにかく楽しい。バレエの質も非常に高く、文句無し。本当は日帰りでベルリンを訪れる予定を、あまりに寒い(-15〜20℃)ので取りやめてあまり興味のないバレエ鑑賞に変更し、大正解。1日2回公演で、夜の公演を楽しんだのであるが、昼のも観るんだったと大後悔。座った場所は2階席前列の舞台から見て左側であるが、オケの音が明瞭に聴けるし、舞台も十分に見渡せるのでお勧め。

2006年1月25日 Massimo Zanetti指揮、ドレスデン・シュターツカペレ オペラ モーツァルト 「フィガロの結婚」
序曲が終わり、スザンナ役のLaura Giordanoのかわいらしさに感動した後、フィガロ役のMartin Marquadtを見てがっくり。ぱっと見でうだつのあがらない40代後半くらいの外観で、どうみてもスザンナの結婚相手に見えない。おまけにアルマヴィーヴァ伯爵役のFabio Maria Capitanucciが外見が20代後半の男前。どうみても両者が逆。それが原因で、最後まで強い違和感が継続した。しかし、音楽的には大変すばらしい公演で、特にフィナーレの重唱のところはあまりのすばらしさに聴いていて涙が出た。 しかし、この公演で強く感じたのは、歌っている言葉を理解できないというのは聴いていてつらい。特にフィガロの結婚の場合、はらはらどきどきのどんでんがえしを含む絶妙な場面展開が見所なのであるが、音楽だけではその展開を楽しみ尽くすのは不可能。イタリア語なので、歌詞対訳が天井から吊るされた板にドイツ語で写されているのであるが、私の座った6列目からは見るのに辛い位置にあり、私の周囲にいたドイツ人もいま一つ盛り上がりに欠けるようであった。舞台装置も非常に質素で、現代風だし、もちょっとなんとかならないものだろうかと感じた。

2006年1月26日 Rainer Muhlbach指揮、ドレスデン・シュターツカペレ モーツァルト 「後宮からの誘拐」
序曲開始前からオケのメンバー3名がトルコ風の衣装を着た衛兵になり舞台に登場し、序曲演奏開始とともに太鼓とトライアングルを演奏しながら行進。それだけで「おおっ」と思わせ、その後の期待度がアップ。トライアングルの音がホールに響き渡り、それだけでもううれしくなってしまった。舞台装置は質素だけれども、あっと思わせる演出もあり、不満なし。オスミン役のReinhard Dornの出来は演技、歌唱ともに完璧。歌詞がドイツ語なので、ドイツ人観客も大盛り上がり。唯一違和感を感じたのは、他のキャラが古風な服装をまとっているのに、Ahmad Mesgarhaが演じるセリム・パシャだけが現代の白いスーツを着ていたこと。なお座った席は平土間6列目の32番と舞台から見て左側に寄っていたが、反射音かバイオリンの音も明瞭に聴こえ、かつ歌手の声も明瞭に聴こえるので、とてもよかった。 この歌劇は1970年代に、レコードでベーム指揮ドレスデン・シュターツカペレの演奏(1973年、ルカ教会での録音)を聴いて好きになり、いまだモーツアルトの歌劇で一番好きなものである。今回の旅行もこの歌劇を観るのが一番の目的であったが、十分にに満足できる公演であった。

2006年1月27日 Helmut Branny指揮、ドレスデン室内オーケストラ、モーツァルトのアダージョとフーガK564、ウィンクラーのAdagio, ma animato fur 12 Soloinstrumente、モーツァルト バイオリンとヴィオラの協奏曲 K364、Druschetzkyのオーボエ協奏曲、交響曲第40番ハ短調
モーツアルト生誕250周年という記念すべき日。このチケットはシュターツカペレのwebサイトからはオンライン予約できなかったのでメールをやりとりして入手したのであるが、13.5ユーロと価格も安く、どうも地元の人を優先的に入れるためだったのかも。前日まではちらほら見かけた日本人は他に見かけなかった。演奏前にモーツアルト生誕250年を祝うスピーチがあった。モーツアルトの曲の演奏は、現代楽器でピリオド演奏をするという私の嫌いなもの。やめてくれーと思ったがしかたがない。演奏法はともかくK364でのソリストが使っているバイオリンとヴィオラの音色はすばらしく、ずいぶんといい楽器を使っているのだろうと思わせた。ティンパニが大活躍するウィンクラーの曲もたいそう面白かった。オケピットを上げた状態でのホールの響きはどうなのかと期待していたのであるが、後述するルカ教会での響きを堪能した後だったためか、満足いくものではなく、少々残念。なお、今回は平土間のやや後ろのほうに座ったので、舞台前の上方に設置されている、時計マニアの間では有名なGutkaesが1841年に製作した機械仕掛けの世界初のデジタル時計を充分に楽しむことができた。5分ごとにギリシア文字が刻まれた文字盤がゆっくりと回転し、時を刻んでいくのは見ていて面白い。


世界の音楽ホールを訪ねて−旧教会(ドレスデン、ドイツ)

以下の演奏会を聴いた。
2006年1月25日 ジルバーマン オルガンコンサート
オルガン演奏:Hansjurgen Scholze
バッハ BMV867, BWV525, モーツァルト K618

天井の高い教会で聴くと、天から降ってくるように聴こえる。大変、音の美しいオルガン。

世界の音楽ホールを訪ねて−ルカ教会 (ドレスデン、ドイツ)

以下の演奏を聴いた。
2006年1月27日 ドレスデン・フィルハーモニー マックス・レーガー レクイエム op.144b(リハーサル)

ドレスデン・フィル、シュターツカペレ・ドレスデンなどの演奏録音によく使われる教会。どんな教会か外観を見るだけでもと、ホテルのフロントデスクで場所を教えてもらってドレスデン中央駅から15分ほどかけて歩いてい行ってみたら、運良くドレスデン・フィルが29日の演奏会のリハーサルを始めるところだった。許可を得て中に入り、リハーサルを最後まで聴かせてもらったが、各楽器の音が明瞭にかつ美しく響き、天国にいるような感じがした。まさに多数所有しているルカ教会録音のCDでいつも聴いてきた美しい響きである。金管が強く吹いてもバイオリンが明瞭に聴こえるのには関心した。床は板張りでよく響く。天井には証明、録音機材を設置するためのパイプ骨組みが設置してある。平土間には一般的なヨーロッパの教会にある木製の横長の座席はなく、すぐ片付けられるようにパイプ椅子が並べられている。週末のミサのみならず頻繁に録音スタジオとして使われているようだ。置いてあった教会のパンフレットで確認すると、結構、演奏会も開催されている。次回ドレスデン訪問は、この教会での演奏会をメインにしたい。日本に帰ってブロムシュテット指揮SKDの英雄の生涯のCDを聴いたのであるが、CDケースを開けるとCDの反対側にある解説書の背表紙にちょうどルカ教会内部の録音風景の写真が載っていた。それは、私が座っていたあたりに指揮台が設置されてブロムシュテットが指揮しているところを撮影したもの。いままでは私にとって何の意味も持たない、どこで撮影したかもわからない1枚の写真だったのであるが、今では自分の体験したすばらしい情景を鮮明に蘇らせてくれる貴重な写真である。外観内部の様子1内部の様子2戦争で破壊される前の写真戦争で破壊された直後の写真。現在、尖塔を再建するための募金活動が行われている(この教会にさんざお世話になっている音楽業界の方々が寄付すればすぐのような気がするが・・・)。

世界の音楽ホールを訪ねて−王宮会館 (ドレスデン、ドイツ)

以下の演奏を聴きそこねた。
2006年1月22日 ドレスデン・フィルハーモニー ライジガー作曲 オラトリオ ダビデ

チケット買ってあったのに、1/21成田発ミュンヘン行きの飛行機が何年かに一度の大雪のためフライトキャンセルされ、1日遅れでドレスデンに到着したため聴けなかった。めずらしい曲なので楽しみにしていたのに・・。この演奏会の前に聖十字架教会でドン・コサック合唱団の演奏会を楽しんで演奏会のはしごをするはずだったのが・・・・。合唱好きの人間にとっては非常に残念。2002年メトロポリタン歌劇場東京公演のシェーンベルク グレの歌の公演を半年前にチケットを購入して楽しみに待っていたのに、直前に急な仕事を入れられて聴けなかった時の悔しさを思い出した。

世界の音楽ホールを訪ねて−コンセルトヘボウ (アムステルダム、オランダ)

2002年の8月に続き、2回目の訪問である。以下の演奏会を聴いた。
1) 2004/8/29 Gerard Korsten指揮/Radio Kamerorkest(オランダ放送室内管弦楽団)、ソプラノ Henriette Bonde-Hansen, Lenneke Ruiten、メゾソプラノ Cecile van de Sant、テノール Guy Fletcher, Patrick Henckens、モーツァルト 歌劇「羊飼の王様」演奏会形式
 モーツァルトの曲はたいがい知っているけれど、この歌劇については内容を熟知しておらず何を歌っているのか全くわからなかったので、名演奏にも関わらず感動が半減。もったいないことをした。出発前にCD代をケチって予習しなかったことを後悔。

2) 2004/8/30 Daniele Callegari指揮/Koninklijke Filharmonie van Vlaanderen(ロイヤル・フランダースpo、ベルギー)、メゾソプラノ Michelle De Young、ドヴォルザーク 序曲オテロ、マーラー 亡き子をしのぶ歌、R.シュトラウス 組曲「バラの騎士」

3) 2004/8/31 Paul McCreesh指揮/Kammerorchester Basel(バーゼル室内管弦楽団、スイス)、チェロ Pieter Wispelwey、シベリウス 悲しいワルツ、ショスタコービチ チェロ協奏曲第1番、ベートーヴェン 交響曲第7番
 座った席は最前列のど真ん中。チェロ協奏曲の際には目の前数mにソリストのチェロが。チェリストの息使い、弓が弦に触れる音など、後ろのほうの座席では味わえない、演奏家との一体感を感じることのできる演奏であった。しかし、オーケストラを楽しむにはちょっと前過ぎ。

4) 2004/9/1 Philippe Herreweghe(フィリップ・ヘレヴェッヘ)指揮/ロイヤル・アムステルダム・コンセルトヘボウオーケストラ、ピアノ マリア・ジョアオ・ピリス、ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番、シューベルト 交響曲第10番よりアンダンテ、同 交響曲第5番
 今回、旅先にオランダを選んだのはピリスの演奏を聴くためである。以前、ピリスの演奏するモーツァルトピアノ協奏曲第20番をNHKでTV放送で見て感動したため、ピリスの演奏を聴ける場所を選んでやってきたのである。1階席はとれずに、やむなくオーケストラの後ろの席(1階客席から見て左側)となった。ピリスのピアノはすばらしかったが、1階正面で聴くのと違ってオーケストラのバランスが崩れて聴こえるので残念だった。演奏する際の手の動きがよく見えてよかったのであるが、ピリスがステージ入りする際には、私の座っている席とは反対側の、1階客席から見て右側の通路を通って降りてくるので、近くで見れずにこれも残念だった。シューベルトの交響曲も5番ではなく、3番にしてほしかった。少々退屈した。

5) 2004/9/4 (マチネ) エド・デ・ワールト指揮/オランダ放送交響楽団、Groot Omroepkoor、Het koor van De Nederlandse Opera、Nationaal Kinderkoor、Nationaal Jeugdkoor、ベートーヴェン 交響曲第3番、ベルリオーズ テ・デウム
 デ・ワールト指揮、バーミンガム市オーケストラ演奏によるビゼー作曲、組曲「ローマ」が私の愛聴盤の一つであり、デ・ワールト氏がどのような人かよく知らなかったので楽しみな演奏会であっが、オケおよび合唱団の質も高く、期待を裏切らないすばらしい演奏であった。映像収録されていたが、DVDが出ていないのは残念。

6) 2004/9/4 ヤンソンス指揮/ロイヤル・アムステルダム・コンセルトヘボウオーケストラ、オネゲル 交響曲第3番、R.シュトラウス 英雄の生涯、アンコール R.シュトラウス バラの騎士から、(ヤンソンス首席指揮者就任記念コンサート、パーティ付き)
 パーティー付き演奏会のため、料金が通常の2倍の100ユーロ。演奏会前から演奏終了後の夜12時ころまでホール内の特設会場で飲み放題、食べ放題であった。日本からインターネットでチケットを購入する際に、なぜ料金が高いのか分からなかったのであるが、当日会場に来て理解した次第である。実は、この日のコンサートがヤンソンスの就任コンサートであることも知らなかった。コンセルトヘボーファンとしては大チョンボである。さて、演奏のためのメインホールであるが、ARVO社による映像撮影のため、1階席の前数列が取り外されていた。そこから数列後ろに座ったが、演奏中にカメラクルーが前をいったりきたりするので、演奏に集中できず残念だったが、その後発売された当日のライブDVDには私も映っており、いい記念になった。演奏は文句なし。特筆すべきはパーティーで出された料理。その場で切り出されるチーズ、生ハムは今思い出しても唾液がほとばしるほどおいしいものであった。宿泊したホテル(ホテルベルディ)がコンセルトヘボウから徒歩2分と近場なので、安心して最後まで飲み食いし、たいそう酔っ払ってしまった。パーティーでの飲食の感動が演奏会の感動を完全に上回ってしまい、とほほである。ところで、ほとんどの人が正装で参加している記念すべき演奏会に白無地のTシャツ、Gパン姿で最前列に座って聴いていた日本人がいたのはいただけない。パーティー会場に現れた本人から直接聞いたが、アムステルダムで開かれた国際学会に出たついでに内容もよくわからず立ち寄ったそうである。都合が悪くて来たくてもこれない日本のコンセルトヘボーファンが聞いたら激怒するであろう。

世界の音楽ホールを訪ねて−セント・バフォ教会 (ハーレム、オランダ)

オルガン演奏会。詳細後日記載。

世界の音楽ホールを訪ねて−ドロシー・チャンドラー・パビリオン (ロスアンゼルス、USA)

以下の演奏会を聴いた。
2002年10月3日 サロネン指揮/ロスアンゼルスフィル ウォルフ 「カルミナブラーナ」, バルトーク「不思議な中国の役人」
2002年10月4日 サロネン指揮/ロスアンゼルスフィル ウォルフ 「カルミナブラーナ」
Harolyn Blackwell (soprano), Stanford Olsen (tenor), Rodney Gilfry (baritone)
Los Angeles Master Chorale, Los Angeles Children's Chorus

見た目はニューヨークのエイヴァリー・フィッシャー・ホールに似ており雰囲気が似ている。床は木ではなく、コンクリート。椅子は布張りで音を吸収するし、壁にはへんなでっぱりがたくさんついているし、いかにも音響悪そうである。ステージの奥行きが妙に大きく、自分から合唱団までの距離がオケまでの距離とくらべずいぶんと遠い。演奏始まってがっかりしたのは案の定、行ってこいの音響で、響きが乏しく、合唱団も遠くに聴こえる。その辺を頭で補正しながら聴いたが、演奏の質は大変高く、大満足の演奏会であった。この曲はアマチュア合唱団で何度か聴いているが、やはりプロの合唱団で聴いたほうが曲のよさがよくわかる。ソロではテノールのオルセンの熱唱がすばらしかった。1日目は1階席中央で特上席だったのであるが、そのチケット代 53ドルよりも 2日目、2階最前列が82ドルと高いのが不思議だったのであるが、座ってから理由がわかった。2階席の椅子は、1階席の椅子と比べてクッションの柔らかいふかふかの椅子なのである。肘当てにもやわらかいクッションが埋め込まれている。1階席よりもずいぶんと座り心地がよいが、音を吸収すること甚だしく、音響の悪さに非常に貢献している。どのような経緯でこのような設計になったかのかは不明であるが、設計当時、ムジークフェラインザール、コンセルトヘボー等の響きのよいホールを研究したとは思えない。このような音の悪いホールと付き合わなければならなかったのはロス市民にとっても演奏者にとって不運であったが、もうすぐ日本の会社が音響設計した新しいホール(ウォルトディズニーホール)がこのパビリオンのすぐ裏手に完成し、ロスフィルの本拠地となるのが朗報である。
あと驚いたのは、演奏会が定時に始まらないことである。両日とも夜8時からなのであるが、実際、客が全員席につくのは8時15分ころである。開演のブザーが鳴ってもロビーでコーヒーを悠長に飲んで席に戻ろうとせず、この人たちは何を考えているのだろうかと思ったが、演奏中の聴き方は大変真面目で驚いた。2日目の演奏会はカジュアルフライデーと称して演奏者がカジュアルファッションで演奏したのがおもしろかったが、前日と比べて1曲減らしているのはいただけない。その理由として「(早目に終了し)皆様を演奏会終了後、ホール横のレストランでの団員との懇談会に招待致します」との説明が演奏前にあったのであるが、喜んで行ってみたところ、レストランは貸切りではなく通常営業のままで一般客も多数おり、食事も飲み物もすべて通常通りの有料サービスであった。盛り上がっているのは団員ばかりで、訪れた演奏会帰りの客のほとんどはわけがわからずにそそくさと退散していった。日本だったら苦情が出そうであるが、ロスではこのようなのが常識なのだろうか。よく考えれば、2000人近い客を招待したところで入れるわけではない。いったい何を考えているのだろうか(コンサートプログラムにも「招待」と書いてあり、聞き間違いではない)。アメリカの常識は日本の非常識であると言いたかったが、演奏前に指揮者サロネンの10分にもなる楽曲解説(自分がもともと嫌いだったカルミナブラーナをなぜ好きになったかも含めて)が面白かったのでよしとした。(今から考えるとフリードリンクだったのか?よく確かめなかった自分が悪かったのかも。謎)

ところで、この演奏会のチケットはweb予約したのであるが、注文フォームがアメリカ国外からの注文に対応していなかった(アメリカのzipコード、電話番号を入力しない限り発注できない)。しかたないので架空のzipコードと電話番号を入力し、その旨コメントをつけて渡米1ヵ月前に発注したのであるが、案の定というか、待てど暮らせどチケットは送られてこなかった。問い合わせのメールを出しても返事はないし、電話確認しようにもwebサイトに問い合わせ先電話番号の記載がなく確認できない。渡米し、だめもとで演奏会当日に窓口へ受け取りに行ったが、やはりチケットはなかった。しかし、窓口のお兄さんにweb発注の画面コピー、確認のメールを見せたところ、時間はかかったものの、非常によい席を確保してくれた。フランスの歌劇場の窓口の対応とはえらい違いである。

世界の音楽ホールを訪ねて−コンセルトヘボー (アムステルダム、オランダ)

以下の演奏会を聴いた。
2002/8/17 シナイスキー指揮(シャイー代役)/ロイヤルコンセルトヘボー管弦楽団 ベートーヴェン 交響曲第7番 他
2002/8/21 インバル指揮(シャイー代役)/ロイヤルコンセルトヘボー管弦楽団 マーラー交響曲第3番
2002/8/19 ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ ベートーヴェン 交響曲第1番、3番
2002/8/20 ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ ベートーヴェン 交響曲第2番、7番
2002/8/22 ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ ベートーヴェン 交響曲第4番、8番

オランダに行ったのはフェルメールの絵を見るのが目的であり、このホールの音響のよさについては旅行ガイドブックに書かれているのを読んだ程度であまり気にしていなかったのであるが、実際に聴いてみて自分の無知に恥ずかしくなった。とにかくすばらしい音響である。床はムジークフェライン大ホール、コンチェルトハウス大ホール同様に木でできており、よく鳴る。オーケストラのステージは130cmと高く、側面の木がよく鳴る。ホール全体がよく鳴る割りには音がぼやけず、各楽器の音が明瞭に聴こえる。管楽器の音は飽和せず、明瞭かつ柔らかく聴こえる。音の明瞭さはムジークフェラインザールよりも優れている。1階席前後左右、2階席最前列、ステージ上のオーケストラの後ろ最前列・・・、いろんなところで聴いたが、聴く場所によって楽器のバランスが違って聴こえるものの、どこで聴いても十分音が聴こえるため、不満なく聴ける。ロイヤルコンセルトヘボーの演奏は秀逸で、ベートーウェン 交響曲第7番の第2楽章の美しさは言葉では言い表せないいものであった。シャイーの指揮を見れなかったのは残念であるが、インバルの振るマーラーを聴けたのであるからよしとしよう。18世紀オーケストラの演奏は、CD録音での演奏と比べ楽器のバランスが悪く、テンポも歯切れが悪いように感じたが、まずまずの演奏で楽しめた。ここでチケット購入の際の注意。インターネットのコンセルトヘボーwebサイトで出発前の1ヵ月前に発注しようとしたのであるが、エラーが出たり、発注したのにチケット確保の連絡がなかったり、現地引き換えか、日本へ送付かの連絡がなかったりで、大変困った。電話代をけちらず、電話発注にするべきであった。結局はホールの窓口で無事チケットを入手できてよかったのであるが、1ヶ月前に予約したにもかかわらず端の席が多く(18世紀オーケストラでは7分の入りだったにもかかわらず)、がっかりした。Webで座席指定せずに申し込んだ場合、はなから端の席があてがわれると聞いていたが、どうも本当のようだ。そのくせ窓口のキップ売りのおばさん、おねえさんは第2部から入ってきて空いているいい席を確保して聴いている(お金払っているかどうか不明)。フランスの連中といい、どうもヨーロッパの人は顧客軽視でいただけない。

このホールの響きをCDで楽しむのであれば、これがお勧め。
シャイー指揮ロイヤルコンセルトヘボー管 ストラヴィンスキー ペトルーシュカ他 (デッカ)
各楽器の音の響きが本当に美しく録音されており、ストラヴィンスキーのよさを再認識させてくれます。目をつむればそこはもうコンセルトヘボウです。

世界の音楽ホールを訪ねて−メトロポリタン歌劇場 (ニューヨーク、USA)

以下の歌劇を観劇した。
2000年10月 レヴァイン指揮/メトロポリタン歌劇場管弦楽団 ビゼー 歌劇「カルメン」

まず、ホール入って正面の両サイドにかかげられた大きなシャガールの絵に圧倒される。次に、ホールの内部に入ってホールの巨大さに圧倒された。4000人収容できるらしいが、そのからくりは、大阪フェスティバルホールの2階席の後ろに3階席が後方へさらに千数百人分連なっている様を連想してほしい。私は1階席の前の方中央部に座ったのであるが、後ろを振り返り見上げると、最後部の席ははるかむこうのほうで、人が豆粒のようにしか見えない。舞台は遠くて見えないし、音もきちんと聞こえないのではないかと思う。演奏が始まって驚いたのは、オケの音がホールの後方で反射してしばらく時間がたってから戻ってくるため、前の席では音が2重にダブって聞こえるのである。致命的な欠陥構造といってもよいだろう。しかし、ソリストの歌唱と演技、オケの演奏はすばらしく、ホールの欠陥を忘れさせるものだった。とにかくすごいと思ったのは歌手の声量である。これだけの巨大ホールでありながら、その大きさをまったく感じさせなかった。また、各座席の背部に赤色ダイオードを使った英語への歌詞対訳表示装置が埋め込まれており、ストーリーを十分理解しながら観劇できるのもすばらしい。ただ、演奏中に観客がやたら咳ばらいをするのが気になった。演奏中、常にどこからか咳払いが聞こえていた。空気が乾燥しすぎているのか、埃っぽいのか、原因は不明である。

世界の音楽ホールを訪ねて−エイヴァリー・フィッシャー・ホール (ニューヨーク、USA)

以下の演奏会を聴いた。
2000年10月 エッシェンバッハ指揮(マズア代役)/ニューヨーク・フィルハーモニック ドヴォルザーク 交響曲第9番 他

チケットを購入した際のプログラムは、マズア指揮のブラームス交響曲チクルスであり、たいそう期待していたのであるが、当日行ってみたらプログラムが変更されておりがっくり。おまけに指揮者は私の好みではないエッシェンバッハ氏であり2度がっかりである。エッシェンバッハ氏はストコフスキーを思い起こさせるようなとんでもないテンポのゆり動かし方をし、聴いてて興ざめであった。演奏のほうもとんでもない指揮についていけないのか、荒っぽい演奏であった。しかし、聴衆の大半は演奏にたいそう満足しているようで、楽章ごとに盛大な拍手をするので、私にとってはよけい興ざめである。アメリカにおけるクラッシック音楽文化の水準がこんなに低いのかと新たな発見をしたのであるが、にわかに信じがたい情景であった。
  ところで演奏を聞きながら思ったのは、アメリカ人は音響のよいホールでクラッシック音楽を聴く機会が日本人と比べて途方もなく少ないのではということである。このエイヴァリー・フィッシャーホールも響きは最悪で、天下のニューヨーク・フィルがこんなところを本拠地にしているとはとても信じられないのであるが、日本では滋賀県守山市のコンサートホールのように、最寄の駅(JR守山)から徒歩30分の田舎の田んぼのど真ん中にさえムジークフェラインザールのような超豪華なコンサートホールが建設されている。おかげで日本人の耳は肥え、少々の演奏では満足できない贅沢な体質にまでなっている。しかし、豪華なコンサートホール乱立の裏には、一部の人のために税金が不当に使われているという事実があり、いずれ近い将来これらの莫大な無駄使いが原因となって日本経済が崩壊することを考えると日本人が幸せとも思えず、複雑な心境である。

世界の音楽ホールを訪ねて−カーネギーホール (ニューヨーク、USA)

以下の演奏会を聴いた。
2000年10月 内田光子 他 室内楽

セントラルパークの南端から歩いてすぐにあるホール。昔、1976年5月にカーネギーホールの閉鎖をなんとか防ごうと、ホロビッツ、バーンスタイン、スターン、ロストロポービッチ、スターン、フィッシャーディスカウらが集まってチャリティコンサートを行ったのをCBSが録音し、「史上最大のコンサート」と称してレコードを発売していたのが強烈な印象として残っており、どんなすばらしいホールなのかと期待を大きく膨らませて行ったのであるが、ごく普通の、やや小さめのコンサートホールであった。2階の後ろのほうの席であったが、別段、響きが美しいわけではなく、ごく普通のホールと同じであった。

世界の音楽ホールを訪ねて−サル・プレイエル (パリ、フランス)

以下の演奏会を聴いた。
2000年9月29日 チョン・ミュン・フン指揮/フランス国立管弦楽団 マーラー 交響曲第5番

凱旋門から歩いて10分ほどのところにある。とにかく響かないホール。ミュン・フンが渾身の力を振り絞ってオケに指示を出し、オケも必死で音を鳴らすのであるが、聴いていて辛くなるくらい響かない。1階席後ろのほうで聴いたのでよけいそう思うのかもしれない。演奏は文句なしによいのであるが、残念このうえなしであった。私の前に座っていた音大生風のお嬢さん2名にはミュン・フンの大げさな指揮ぶりがたいそう受けており、演奏中に2人で指揮の真似をして、大いに盛り上がっていた。

世界の音楽ホールを訪ねて−オペラ・バスティーユ (パリ、フランス)

以下の演奏会を聴いた。
2000年9月28日 コンロン指揮/パリ・オペラ座交響楽団 マーラー 交響曲第7番

2日前のドン・キホーテの際にはホールについての観察が不十分になってしまったが、この演奏会では体調よく、十分に楽しめた。まずホールの外観、内部ともに近代的デザインで余分な装飾はなく、少々ものたりないが、音響については非常にしっかりと考えて作られたことがうかがえた。1階前方、やや左よりで聴いたが、弦楽器の音が大変美しく響き、大音量にも音が割れることはなかった。オペラの際はオケがピットに入っているので気がつかなかったが、ステージ上でのオーケストラ演奏(特に大編成)に最適のホールに思われた。このホールの特徴は、左右両サイドの座席配列で、垂直の壁面から座席ステージがにょっきりと飛び出しているのであるが、座席の前後の配列の傾斜がとにかく急なのである。「階段を下りる時に足を滑らせ、いきおい余って柵を乗り越えて下に落ちたらどうしよう」と見ただけで冷や汗が出てしまった。なお、このオーケストラの名前はあまり聞いたことないし下手くそなのではという私の勝手な先入観を見事に打ち砕く完璧なものだった。ウィーン国立歌劇場オーケストラに対抗すべく、フランス一の名手を集めているのだろうか。詳細は不勉強のため不明である。

世界の音楽ホールを訪ねて−パリ・ガルニエ (パリ、フランス)

以下の歌劇を観劇した。
2000年9月27日 ウィリアム・クリスティー指揮/レザール・フロリサン ラモー 歌劇「優雅なインドの国々」

1階席中央前方でクリスティーの指揮もよく見えるし、舞台にも近く、贅沢な席であった。音響については特に印象に残っていないが、可もなく不可もなし。曲についてはしょっちゅう聴いているのでよくわかるのであるが、ストーリーを予習していかなかったので舞台で何が繰り広げられているのかまったくわからず、楽しさ半減で、大反省。また、私のちょうど前にいかにも金持ちのおぼっちゃま+その恋人(非常にかわいらしい)が座っていたのであるが、男性がひっきりなしに女性にブチュブチュと音を立ててキスをしまくるので、ついついそちらを観察してしまい、うらやましいと思いつつ、オペラ鑑賞どころではなかったのも事実である。

世界の音楽ホールを訪ねて−オペラ・バスティーユ (パリ、フランス)

以下の歌劇を観劇した。
2000年9月26日 パリ・オペラ座管弦楽団 マスネー ドン・キホーテ

フランス到着初日の演奏会であったが、ひと悶着あった。そもそも出発1ヵ月前にインターネットでドンキホーテ、優雅なインドの国々、マーラー交響曲第7番のチケットを一度に申し込んだのであるが、日本に送付されてきたのは後者の2枚のチケットのみ。それも住所の書き方がいい加減で、あて先人不明で返送されるのをなんとか東京国際郵便局の人が回避して届けてくれたのである。残り1枚については行方不明になったのが明らかなのでクレームをメールで送付したが、窓口で渡すからとの返事。その言葉を信じたのがいけなかった。当日開演2時間前に窓口に行き、アルバイトでやってる学生風のお姉さんにメールを見せ、チケットを再発行してくれと頼んだが、端末で何かチェックしていると思ったら「あんたはチケット代はらっていない。ここでお金をはらわないかぎり発行できない」との説明。「窓口で渡すとメールに書いてあるではないか」と言っても「私はしらん」というだけ。しょうがないので、1時間かけていったんホテルに帰り、web申し込み時の画面コピー(座席番号、申し込みを受け付けたのでチケットはすぐに発送する、代金は自動的に引き落とされる、との記載あり)を持ってきて窓口で再度交渉したが、「金をはらわないかぎりチケットは出せない」との一点張りで埒が明かない。こちらも「あんたの言うことは理解できん」と声を荒げて揉め続けているうちに私の後ろに長い列ができてしまい、困った。とうとう、別の係員が出てきて私を別のところへ連れて行き、「本当に金はらったんでしょうね」と疑いながらようやく私が予約した座席番号のチケットを発行してくれたのは開演5分前であった。時差ぼけの中、1日中パリ市内観光をした後の揉め事だったので心底疲れ果ててしまい、開演後すぐに意識朦朧。予習もせず、ストーリーも曲もまったく知らない歌劇だったので、音楽を楽しむどころではなく、不愉快な気分が拭い去れないこともあり、どちらかというと早くホテルに帰って横になりたい状態であった。特に後半部は爆睡してしまい、終了後の観客の拍手で目が覚めた。ところで、1幕終了後の休憩時に、くだんの窓口のわからずや女史はどんな仕事をしているのかと事務所を覘きに行ったところ、ちょうど同じくアルバイトと思われる男性3名とweb受注したチケットの発行作業をしているところであった。ぺちゃくちゃと話しをするのに夢中で、手元はおろそか。みるからにずさんな作業である。宛名シールを見たところ、私の例と同じくいいかげんなプリントアウトであった(シールの大きさに収まるよう、適当に住所をカットして印刷している)。その後、それを箱に詰めてどこかへ運んでいったが、今宵も世界中でチケットが行方不明になっているのかと思うと、気が重くなった。帰国後、クレジットカードの引き落とし状況をチェックしたところ、web発注時にしっかりとチケット3枚分、引き落とし手続きが行われていた。劇場窓口で払っていれば2重取りされるところだった。実は今回の旅行では、ホテルでもトラブルにまきこまれていた。夜遅く到着したときの部屋確保保障付きの7泊分前払いをし、かつ直前に「夜11時ころに到着するので部屋はきちんと確保しておいてくれ」とFAXを送付してから行ったのであるが、ちょっと遅れて夜12時ころにホテルに到着したところ、「遅く来たのであんたの部屋はもうない」と言われ途方にくれた。私の直後に到着したアメリカ人前払い済み3人組に対してもまったく同じことをほざいていた。ほとんど詐欺である。さんざん文句を言って系列のグレードの高いホテルの部屋を手配させ、移動のタクシー代も出させたが、気の弱い人はどうするのであろうか。フランス人はいいかげんでかつ責任をとらないと聞いていたが、まさにそのとおりであった(いい人もたくさんいるのでしょうが・・・)。

生々しい録音 (1999/8/24)

1959年録音、シルベストリ指揮ウィーンフィルの演奏のLPレコードの音が妙に生々しかったので、1960年前後に録音されたウィーンフィルの演奏のCDはどんなものか確かめるため、新宿タワーレコードにて1962-3年録音、ルドルフ・ケンペ指揮ウィーンフィルによる"Wienna Philharmonic 'On Hokiday"というCD(TESTAMENT SBT1127)を購入。シルベストリのLPレコードほどではないが、やはり生々しい音がする。エコーをかけるといったような、妙な音の加工をしていない素直な録音であり、音楽を充分に楽しむことができた。次に、同時に購入した、1962年による録音、カラヤン指揮ウィーンフィルによるアダンのバレー音楽ジゼル(デッカ原盤)を聴いた。なんとなく不自然な録音で素直に楽しめない。録音というものはエンジニアと指揮者の意向によって大きく変わることを認識した次第である。

LPレコード再考 (1999/8/8)

がんこおやじのいるアマデオが、週間朝日の連載「小さい旅みつけた」に店内の様子を写した写真入りで紹介されていた。写真にはたまたまジャケットの見えるレコードが写っていたのであるが、それは私が聴いたシルベストリ指揮ウィーンフィルによるハチャトリアンのガイーヌ(1959〜1961年録音)であった。その時に聴いたガイーヌの演奏が頭から離れなかったのであるが、これも何かの縁というやつだろう。さっそく、そのレコードを買いに出かけた。がんこおやじにほしい旨を伝え探してもらったのであるが、「これもなかなかの名演奏ですよ」とパウル・クレツキ指揮ウィーンフィルのマーラー交響曲第1番(1961年録音)といっしょに取り出してきた。2枚で5000円。なかなか商売がうまい。久しぶりにわくわしながら家に帰り、聴いてみて驚いた。とても1960年前後の録音とは思えない、リアルな音である。弦と管楽器の高音はCDより優れている。おかげで現在のウィーンフィルとは違う1960年当時のウィーンフィルの響きを充分に堪能することができ、大満足であった。がんこおやじの言っていた「音が正しく録音されているのは1960年前後のレコード」という言葉も、あながち間違いではなさそうである。

川越のがんこおやじ (1999/7/31)

川越市役所近くの中古CD屋兼クラッシック喫茶「アマデオ」を訪ねた。いまにも崩れそうな古い木造2階建て一軒家の1階が喫茶店となっている。裸電球がぶら下がるお世辞にも綺麗と言えない室内には小さいテーブルが2つにイス6つ。その回りにはダンボール箱に詰められた販売用の中古LPが溢れている。その奥に真空管アンプとむき出しのプレーヤーが無造作に置かれている。スピーカーは一個しかない。それと共に店主のシャツが干されている。外気温は30度を超えているというのに冷房装置もない。異次元空間に迷い込んだようだ。とても若いカップルが来るようなところではない。先ほどまでハイドンの交響曲が店の外に聞こえていたのであるが、私が入ると同時に店主は再生を止めてしまった。どうみても私がクラッシック音楽を愛好しているようには見えないからであろう。しょうがないので、カレーを注文した後、ダンボール箱の中から1959年録音、シルベストリ指揮ウィーンフィルによるハチャトリアンのガイーヌを取り出して聴かせてくれと頼んだ。しばらくの間、カレーを食べながら再生音に聴き入っていたのであるが、店主は私に興味を持ったらしく、演奏が終わるなりどうしてこのレコードを選んだのか訪ねてきた。「ムジークフェラインザールの響きに魅せられてウィンーンフィルのCDをいろいろと買って聴いているんですよ」と答えたところ、いきなり「それは間違っている」と説教が始まった。「CDなど聴く人の気が知れない。偽の音を信じてどうするのか」「ホールの響をCDで聴けるはずがない」「音が正しく録音されているのは1960年前後のレコード」「東京オリンピックのころから音を細工するようになり、その後のはとても聴けた物ではない。中古の市場価値無し」「最近は知識だけが先行して音を聴かない人が多い」云々、生演奏至上主義の私にとってはあまり興味のない話であったが30分近く店主の説教は続いた。説教よりもレコードのほうを聴きたかったのであるが、肉のたっぷり入ったインド風カレーと、煎りの強い豆をガリガリとひいて入れてくれるコーヒーが旨かったのでよしとした。

インターネット通販 (1999/7/30)

休日を1日つぶし、欲しいCDを足が棒になるまで探すが結局見つからずがっかりして帰った経験がこれまで何度あったことか。そういう場合、ほしいものが見つからなかったことよりも貴重な時間を無駄に過ごしたことが辛い。しかし、インターネットの普及でそのようなこともなくなりそうである。USタワーレコードのホームページでは、ほしいCDのタイトルや演奏者を入力すると、検索してすぐにそのCDの内容詳細と在庫状況を表示してくれる。多くのものは1分間のリアルオーディオファイルがいくつか添付されており、演奏を試聴することも可能である。未知の曲、演奏者のCDの場合、興味があっても即座に購入するのには躊躇してしまうが、このシステムならば試し聴きして気に入ったものだけ購入すればよい。暇にまかせて試聴しているうちに、ついつい余分な物まで買ってしまう人がたくさん出てくるに違いない。情報を提供する側としても、本の立ち読みのように商品が汚れたりすることもなく、メリットの大きい画期的なシステムである。 (2000/6追記:1999年11月にニューヨークのタワーレコードを訪れたが、トイレもない、2階建てのこじんまりとした店で驚いた。品揃えは渋谷のタワーレコードのほうがはるかに充実していた)

酢漬け弦楽四重奏団 (1999/7/5)

1971〜1972年にドレスデンのルカ協会で録音されたベルリン弦楽四重奏団による後期モーツァルト弦楽四重奏曲集はこの世の物とは思えないすばらしい演奏で、その5枚組LPレコードは私の宝物であった。そして私は長い間、それがCDとして発売されるのを待っていた。10年待つ間、同四重奏団によるモーツァルト前期弦楽四重奏曲集とベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲集がシャルプラッテンレーベルで1枚1000円の廉価版で国内販売された。しかし待てど暮らせど、後期モーツァルト弦楽四重奏曲集だけ出てこない。不思議でしょうがなかったのであるが、昨日、石丸電気にて、第一バイオリン奏者のカール・ズスケ氏の名を冠する、ズスケ弦楽四重奏団(Suske-Quartett)の演奏による後期モーツァルト弦楽四重奏曲集(ベルリンクラッシックスレーベル)を発見するに至り、謎が判明した。そのCDにはどこにもベルリン弦楽四重奏団とは記載されていないし、録音場所も書いてなかったが、盤元がシャルプラッテンらしいのと、初出が1974年であることは書かれていた。おそらくこれはベルリン弦楽四重奏団と同一団体だろうと判断した私はベルリン弦楽四重奏団のCDを探してジャケットを調べた。そこには、ベルリン弦楽四重奏団(ズスケ・カルテット・ベルリン)と記載されていた。ズスケ・カルテットとズスケ・カルテット・ベルリンは違う団体なのであろうか。まことにややこしい。事の真偽をCD売場のお姉さんに聞いた時の会話。私「あのー、このズスケ弦楽四重奏団というのは昔出てたベルリン弦楽四重奏団と同じでしょうか?」。お姉さん「スズケ。スズケですか。さあー」。私「酢漬け???」。らちがあかないので買って聴いて確かめたのであるが、確かにベルリン弦楽四重奏団=ズスケ弦楽四重奏団であった。Gerald Felber氏のライナーノートによると、ズスケ弦楽四重奏団はベルリン国立歌劇場管弦楽団のメンバーによって構成され、1970年代後半にズスケ氏がライプチッヒ・ゲバントハウス管弦楽団へ移籍した時点で解散。ズスケ氏はその後、ゲバントハウス弦楽四重奏団の第一バイオリン奏者としても活躍したそうである。(ジャケット写真, CD情報)

NAXOS (1999/3/14)

数年前から、イギリスのNAXOS(ナクソス)レーベルのクラッシック音楽CDが700−1000円程度で販売されている。チケット代8000円+交通費2000円という演奏会1回分の費用で10数枚買えるというのは驚異的である。ただ安いというだけでなく、他レーベルでは聴けない作曲家の曲、珍しい曲をたくさん聴けるのがありがたい。おまけにデジタル録音で音が良く、演奏の質も高い。大満足である。とにかく安いので、聴いたことのない曲のCDを買い漁って聴いてみたが、普段演奏会で取り上げられない名曲がたくさん存在することが解った。ウォルトン、ウィリアムズ、ディーリアスの交響曲、管弦楽曲等々。どうせなら生演奏でじっくりと聴いてみたい。しかし実際には「運命+未完成」といったワンパターンプログラムの演奏会が多く、マイナーな曲を聴けるチャンスは少ない。ストレスがたまり、それを解消するためにまたNAXOSのCDを大量に買う。長い間私の信条であった生演奏至上主義も崩壊寸前である。

サビエル聖堂のオルガン (1999/2/21)

引っ越して1年。ようやくレコードプレーヤの入った箱の梱包をといて、ひさしぶりにLPレコードを聴いた。、旧山口サビエル聖堂のスペイン製オルガンにより1982年に録音された、バッハ、パッヘルベル、ラングレ、ラインベルガー、ブクステフーデ、トゥルヌミールの曲の演奏である 。いくつかの管のチューニングがずれているのがこのオルガンの愛嬌であり、毎月、ミサでプロット神父の説教とオルガンの演奏を楽しんだことがなつかしく思い出された。このオルガンは実に味わいのある生きた音を出した。そういう音で曲を聴くと、作曲家の存在が身近に感じられるのが不思議であった。オルガンだけでなく、演奏中に聖堂内に鳴り響く塔の鐘の音は別世界の音のようである。しばし俗世間から離れて崇高な気分で過ごすことができたその当時の気分を再び今こうして味わえるのだから、レコードとは本当に有り難いものである。(ジャケット表ジャケット裏)

ゲルハルト・ヘッツェル氏 (1999/1/25)

24日、NHK教育テレビで1975年にカール・ベーム、ウィーンフィルが来日したときのライブ、ブラームス交響曲第1番が全曲放映された。必死でカセットテープに録音したのがついこの前のような気がするが、四半世紀も前のことだということに驚いてしまった。指揮者のベームみならず、オケのメンバーの中にもなつかしい姿を見ることができた。若くしてコンマスになったヘッツェル、クラリネットのプリンツ、オーボエのトレチェック、フルートのトリップ、ファゴットのツェーマン等など。さらになつかしいと思ったのは、このメンバーの奏でる音楽である。今のウィーンフィルはずいぶんと洗練された音を鳴らすが、1975年来日チームの音は個性が強く、なかなか深い味わいがあった。その個性の一つであったヘッツェル氏の演奏でシュランメルンを聴いてみたかったが、それも叶わない。10年ほど前、登山中に足を滑らせた時に手をかばい頭を強打して亡くなったのだ。冥福を祈るばかりである。

ウィーンフィルニューイヤーコンサート (1999/1/9)

今年も恒例のウィーンフィルニューイヤーコンサートがNHKで生中継された。マゼールの指揮によるウィンナワルツは本当にすばらしく、この放送を毎年楽しみにしている全世界のファンを満足させたに違いない。ウィーンフィルがウィンナワルツを演奏することはこのニューイヤーコンサート以外に滅多になく、絶対に聴き逃せない演奏会である。演奏はさておき、バブル景気真っ盛りのころに目立った日本人客の姿が、今年は本当に少なかったのが印象的であった。チケットはプレミアがついて数十万円。ウィーンまでの飛行機代もいるし、景気がよくては行けるものではない。不景気知らずはウィーンフィルと学友協会。額面分だけでも満席で一回1億円以上の演奏会である。前日に行われるジルベスターコンサート(リハーサル)、全世界への放映権収入、1月中に発売開始となるライブCDの版権料を含めたらいったいいくらになるのか。ワルツにのって全世界の人々が踊らされ、札ビラが舞う。

合唱フリーク (1998/10/24)

先日、池袋の東京芸術劇場で武蔵野合唱団定期演奏会(本名徹次/日フィル)によるオルフ作曲カルミナブラーナを聴いた。オケ、合唱団の出来は上々。ソプラノの管英三子、韓国からオペラ出演をキャンセルしてまでして来日したバリトンの高聖賢は文句なしの出来であった。しかし、私をもっとも驚かせたのは演奏ではなく、会場に来ていた関西在住の合唱仲間K氏、T氏である。わざわざこの演奏会のために夜行バスで東京まで来たそうだ。偶然の再会を祝して杯を交わしたが、両氏とも演奏会にはいたく満足していた。このような合唱フリーク、音楽馬鹿が日本の音楽界を支えていることを痛感した。チケットが売れなければ演奏者、合唱指導者の生活もままならないのである。

CD対生演奏 (1998/10/23)

サイモン・ラトル/ウィーンフィルによるマーラー交響曲第9番のライブ録音CDを聴いた。演奏の良さはともかくとして、その録音の良さに驚愕させられた。ダイナミックレンジの広さは生演奏にはかなわないとしてもアナログLPレコードと比べると天と地の差がある。演奏会場で聴いているようなバーチャル感にも浸ることができる。市場では、従来のCDよりも音質の高いCD規格が流通し始めており、今後どこまで生演奏に近づくのか楽しみである。一方、そのような質の高いメディアが提供されれば、ますます人々は生演奏から遠ざかるのではないだろうかという心配もある。そうなると生演奏に収入を頼っている演奏家はたまったものではない。人が集う場、社交の場という発想のない、演奏を聴くだけの日本の演奏会は廃れてしまうのではないだろうか。